□60□

ガタンゴトン
電車が走る
朝の音
目を覚ましたこの街
また、今日という日が始まる
グルグル
螺旋階段を上って
行く先は見えないけど
ここはもう昨日ではないから
少し、少しずつ進むよ
明日の自分のために



□59□ このまま朽ちていくだけ ただ安穏と暮らし続けて 平穏に肩まで浸かって 腐っていくだけ 生まれてくることに 理由なんてない 自分の存在に 意味を求めるだけ無駄 苦しくなって 命果てるだけ
□58□ 戦って、戦って 戦い抜いて、死にたかった 今の世では それすらもままならないのか。
□57□ 気がつくと一日が過ぎている。 別段何をしているわけではいのだが。 俺に残された時間が、 後20年あるのか、 60年もあるのか、 或いは今日死ぬのかは俺には知り得ないことだ。 しかし俺たちは、 その日一日を懸命に生きることをいつからか忘れてしまった。 この国が腐っているのか、 はたまた俺が狂ってしまったのか。 もし今死んだら、自分の生きざまを誇ることが俺に出来るだろうか。
□56□ 梅の花が咲き始めた。まだこんなに寒いというのに。 負けることなく。 俺はといえば、昨今の寒い社会の中でつぼみさえつけられずにいる。 あんな小さな梅が頑張っているのに。 なんだか情けねぇな
□55□ 信頼なんてしないこった。 この世の中の9割は裏切りだと疑ってかかった方がいい。 そうしないと、なくしたときつらいからな。 俺みたいにこそ泥家業なんてやってるとよ、 心まで腐っちまうが、裏切りだけはわかるようになりやがる。 そうやって生き残ってきたんだ。 今までも。 多分これからも、な。
□54□ 一人でいることを寂しいと思ったことはなかったのに、 近頃はだめだ。 一人でいるとやってくるのは、寂しさか死への恐怖。 ただ耐えられなくなる。 俺が弱くなったのか、死がだいぶ近くなってきたのか。 今の俺に知ることは出来ないが。 とりあえず煙草をふかして、当面の孤独を誤魔化すしかない。
□53□ これをこうやって書いてるのも あたしが 生きた証 何かを残さなくちゃ じゃなきゃ忘れられちゃうから 少しでも あたしの痕跡を残さなくちゃ
□52□ 空を飛びたいと思ってた。 ただ一人で。肌に風を感じて、包まれて。 上昇気流に乗ってくるくる、空の高くまで。 それが自由かどうかは僕にはわからない。 でも、高くまで舞い上がって、地面を見下ろして。 別に神様になりたいわけじゃないんだ。 ただ、ただ空を飛んでみたかっただけなんだ。
□51□ 約束ってのは守るから意味のあるもんで。 破っちゃ意味がないわけだ。 望むか否かは関係なしに、 俺たちは社会という世界の中で生きなきゃならない。 人が複数いればそこには約束が生まれる。 ってことは俺たちは否応なしに その約束ってものに縛られて生きなきゃならないんだよ。
□50□ 気まぐれな空に たばこの煙吐き出して 俺は 一体何を求めてるんだろう
□49□ さあ、今日は どうやってこの命をやりすごそうか
□48□ ただ無性に、 涙腺がゆるんじゃって 特別悲しい訳じゃないの それなのに。 朝が来たのに まるで夜の気分よ どうしたらいいの どうしたらこの雨が降り止むのよ
□47□ 鈍い痛みが、俺の中を走る。 もう治ったと思っていたがそれも思い違いだったようだ。 捨てたはずの過去、 しかし別の人間になれたわけではなかったということか。 所詮俺は俺だ。 とうの昔に捨てた名で呼ばれただけで、 傷は力を取り戻して俺を痛めつけ束縛する。 いや、本当は違うのかもしれない。 この痛みこそが俺だ。 どんよりと重くのしかかってくる、 この得体の知れない痛みこそが、俺なのだ。 もはや痛みを感じないことには 俺は自分の躰を思い出すことが出来なくなってしまった。 あの痛みがやってくると俺は安心するのだ。 嗚呼、俺の躰はまだ此処にある、俺はまだ生きているのだ、と。
□46□ 馬鹿みたい 狭いところに集まって、群がって。 この寂しさが満たされることなんてないのに。
□45□ たまに、ですけどね。 夜、雨とか降っててすごく静かな夜なんか特に、 無性に怖くなるんです。 いきなりふっと、 自分が死んだ後の世界みたいなものがリアルに目の前に見える、 ような気がしてるだけなんでしょうけど。 そんな瞬間がやってくるんです。 そりゃあ前触れなんてものはなくて、いきなりです。 それが本当に忘れた頃にふと訪れるんですよね。 本当に一瞬、死が僕に触れて去っていくような感覚。 ただ純粋に怖いんです。 目もつぶれなくなる。怖くて、怖くて。 僕のいない世界、なのに平然と、なんの変哲もない世界。 見たくないのに目をそらすことも許されずに。 …だから夜が怖いんです。 雨が降ってて、雨音以外何も聞こえない夜なんて、特に。
□44□ ここだって 今だって 誰かにとっては ただの通過点で 必死な顔して 無理矢理時間をやり過ごして 意味もないのに苦しんでる俺は 遠くから見たらたぶん滑稽で それでもいいと思えるほど 俺は強くもないし 弱くもないし どうしたらいい どうすれば一番 楽に生きて楽に死ねる?
□43□ あたしだけを見て あたしだけ。 あの娘のことを見ないで じゃないとあたし 何をするかわからない
□42□ そうよ、あたしは弱いの。そうでしょう? もう少し、もう少し世界が崩れたら、 それと一緒にあたしも崩れ落ちるの。 今だって立っているので精一杯で、 自分がどんな愛想笑い振りまいてるのかすらわからないのよ。 ただ社交辞令の挨拶を交わして、それだけで通り過ぎていく隣人たち。 明日になればそれが誰だったかさえ思い出せないのに。 嗚呼、もう離してちょうだい。 この矛盾だらけの狭くて汚い 世界という檻の外にあたしを出してちょうだい。 そうしないとあたしは、もう壊れてしまうわ。
□41□ 頭が痛いの そうね、薬を飲んでも治りそうにないわ あたしの頭が唸るのは この都会の卑しい騒音に共鳴するから 本当に嫌でたまらないはずなのに それなのにあたしはこの騒がしさを望んでる 静かなところでやってくる 鳴りやまぬ耳鳴りの方が怖いから 誤魔化すことの出来ない 孤独の重圧には耐えられないから 嗚呼、だから頭が痛いの
□40□ 漆黒に 月の白が映える くっきりと 冷たい空気を切り裂いて その冷酷な白を 見せつけるかのように 自分以外の全てを 決して寄せ付けることなく 三日月は 冷徹に微笑む
□39□ 所詮、他人。 みんな。 それだけのことだよ。 俺に言わせればそんな他人をむやみに信じられる奴のが よっぽどおかしいと思うし。 信じれば信じるほど裏切られたとき痛いでしょ。 どうせ無くなるならいらないものがいい。 まわりの物が全部いらないがらくたなら 傷つくこともなく生きていけるじゃない。 何のために生きてるのかとか、 そんなことに理由を求めてどんな返事を期待してるの? 俺らが生きてるのはただ純粋に子孫を残すため。 その中に自分が生きたかすかな証拠を残すため。 生理的な欲求に任せればいいんだよ、 それ以外の感情は自然の淘汰主義のなかでかすれていって、 最後には己の存在さえ危うくするだけだ。
□38□ 冷たい光が射し込む。足の指が冷たい。 家の中は静まり返っていて、外からバイクの走る音が聞こえる。 そっか、独りなんだ 思い出して、急に寂しくなる。 あいつの足の温もりも、耳元で聞こえる静かな寝息も、 なにもない。 わかってはいたけど、結構こたえる。 帰って来いよ、絶対帰って来いよ、お願いだから 独り言が、虚しく宙に残った。
□37□ こんなに臆病だと思ってなかった 一歩進むのがこんなに怖いなんて こんなにちっぽけだと思ってなかった あんなことでいらいらして 周りには知らない世界ばかりで その中に入りたいのに入れなくて こんなに 自分が弱いとは思ってなかった
□36□ 明日も昇るはずの朝日にすがりついて俺は、 どれだけの夜をやり過ごしてきたんだろう。 ブラインドをおろして日光を遮って、 それなのに朝が来るのをひたすらに待って。 矛盾だらけなのはわかってる、でも待たずにはいられないんだ。 そうしないと全てが嘘になって溶け出すような気がして。
□35□ 駆け出した 全部が嫌になって 逃げ出したくて 遠くに行きたくて。 でも 走り出してみた先は 思っていたよりずっと厳しくて。 こんな狭い世界にひしめき合う こんな広い世界の人達 何故みんな此処にいるの 何が楽しくてそこにいるの 僕にはわからない わかれない きっと何かを間違えて だから僕はそこには戻れない
□34□ 剣が、そして互いの気がぶつかる。 風の音だけがやけに耳につく。 敵が、踏み込んできた。一合。 剣のぶつかる冷たい音が響く。 互いの位置が入れ替わり、さらに一合。 ほぼ、互角である。 互いに息が上がる。 殺すか、殺されるか。 その境地を、俺は楽しんでいる。
□33□ もうすぐ夜が来る 赤と緑の光に包まれて 街が輝く 大きなクリスマスツリーの てっぺんに星を飾って 願い事を願う もうすぐ夜が来る
□32□ 風のように流れる音楽だけが あたしの救い 過ぎ去っていく時間だけが あたしの理由 誰か 誰か聞こえる? 誰も聞いていないなら こんなのただの空気の振動でしかないわ
□31□ 己、一人。 この身だけでは何も出来ぬ。 戦が、力がすべての時代に生まれてくるべきだった。 この時代、このちっぽけな俺に出来ることなど皆無だ。 しかし世は腐っている。 立ち上がらねばならないときが、男にはあるのだ。