無題
もう、あきらめろよ
「いやだね」奴の声が響く。
俺たちは銃を手にし物陰に潜み、お互いの隙をうかがっている。
奴が俺より下なのはわかりきっているのに。
お前じゃ俺には勝てねぇーよ
「やってみなくちゃわかんねぇだろ」
奴が動いた。
俺は地面を蹴り電線にぶら下がる。
電柱に足をつけ体を安定させ、引き金を引く。
弾の出る鈍い音がした刹那、奴の胸に風穴が開く。
・・・が血が出ない。
穴だけがただただ赤く覗いている。
やつはふと悲しげな顔を見せた。
俺はもう1度・・2度、3度。
引き金を引いた。
弾は全部奴の体に食い込んだ。
が、奴は死なないし血も出ない。
なんだよてめぇ
「銃の弾を受けたのは初めてだからな」
俺たちは二人とも一流の殺し屋だ。
銃を持って俺たちの右に出るやつなんていない。
「流石だな。1秒足らずの間に4発も撃ちやがって。。」
・・ッたりめぇだ
「でも殺せねぇんじゃざまぁねぇな」
辺りに響く轟音で奴は銃をぶっ放した。
これも運命だ。俺はそう思いその弾を受ける。
ズン、と思い鉛を受けた。
・・・それだけだ。生きている。
これも運命か。
俺の心臓は穴をあけてなお動いているようだ。
ちっ。
奴も舌を鳴らしているところを見ると同じことを考えているらしい。
「やっぱり運命からはにげらんねぇな」
んなこたぁねぇよ
「俺はお前をころせねぇ・・がそれはお前も同じだろ」
だからお前はアホだっつってんだよ
鈍い音を立てて俺の銃が火をふいた。
銃口は俺に開いた穴を向いている。
弾は俺の穴をどこにもかすらずに抜けていった。
・・・・奴の心臓からは紅い血が流れていた。
俺たちはずっとひとつだっただろ
「このために自分の心臓を俺に撃たせたのか・・・?」
んなわけねぇだろ。俺はお前に殺されるつもりだったぜ
奴はふっと何かを悟ったように微笑んだ。
つ・・・と奴の瞳から涙がこぼれる。
「おねぇ・・・ちゃ・・ん・・・」
俺の頬を涙が流れた。
愛してたよ。
きっとこいつも同じことを考えているだろうな、と思いながらその場を立ち去る。
この世から弟の消えた日、私は女に戻った。