雨が降り続ける。

まだそんなに遅くはないのにすでに周りは薄暗い。

頭上には厚く雲が垂れ込め、空気すら憂鬱そうだ

。霧に覆われたある路地裏に1人の少女の影がある。

17,8才だろうか。すらっと背が高く、美しい蒼い髪を長く伸ばしている。

瞳も髪と同じ色だ・・・が、どこか悲しげな、物憂げな、人形のような瞳をしている。

買い物袋を下げ、傘を差して歩いている。

少女も少し暗いイメージを見るものに与えたが、少女のいる町は見るからにくらい町だ。

この町の名は「ダークシティ」

誰がつけたのか知るよしもないが、神の言葉で「闇の町」といったところらしい。


ダークシティのあるここはといえば宇宙に浮かぶ小さなライ系の中の「ディストラクション」という惑星だ。

神の言葉で「破壊」良い名ではないが別名「生星(せいせい)」とも呼ばれる。

ダークシティは人の住むリンクト諸島の一角、ユカーリヌのはずれに位置する。

レンガ造りの大きな家が並び、金銭的にばかり豊かな人々の住む町だ。

特徴といえば巨大な時計塔くらいのことだろうか。

シンボルの時計はカチカチと時を進めている。

あまりにも巨大な時計はこんなくらい日には雲の中にうずくまり聞こえる鐘の音のみが時を知らせる。



そんな折、少女に一人の男が声をかけた。

「お嬢さん、ルセ・リ・ノアで間違いないかな?」

「ええ・・・。」少女ルセは答えてしまう。

「そうか。君は今から私を殺すことになっている。」

「何をおっしゃるんですか?」少しむっとする。

「貴方の意思が私を殺すんじゃない」

「じゃあ誰の意思だって言うの?私忙しいんで。」

何かがルセの中を駆け巡る。我慢できない。

「俺の名はエル。覚えておけよ?」

エルと名乗った男は急に態度を変える。エルはルセの額に手をかざす。


蒼く・・・光った。

「Y,ここに目覚めん」

パァッと辺りが明るくなり・・何があったのだろうか。

ルセにはわからない。

ただただ、目の前に血まみれのエルが倒れていた。

路地に出来た水溜りが紅く染まっている・・・。

「・・・・。」

ルセは駆け出した。途中でかさを落としたが気づかなかった。

走って、走って、落ち着いてくると、ふと止まる。

何処に帰ればいいんだろう。

思い浮かぶのは大嫌いな義母のいる暗くて大きなあの檻だけだ。

彼女は私をあの折に閉じ込めている。逃げられないと知っていて・・。
そう思うとくすくす笑いがこみ上げ、周りの目も気にせず(実際誰も見ていないのだが)上を向いて笑ってみる。

彼女とはルセを引き取ったルーベルだ。

大地主で金持ちだが金銭的にだけ豊かな人の1人でルセにとってはけちな伯母だ。

ルーベルは母のいなくなったルセを引き取ってくれた母方の伯母さんだ。

ルセだって最初からただのけちな伯母だと思っていたわけではない。

実の母の姉である彼女は義母となるまではやさしい伯母だった。

ルセの妹のポルクを引き取ろうとする親族は嫌というほどいた中でも、一族にも恐れられていたルセを引き取ってくれたのはルーベルだけだった。

だがその優しく差し伸べられた手も嘘でしかなかった。


幸せになるはずのルセを迎えたのは奴隷のような日々。

シンデレラになったルセには10年経っても王子様や魔法使いは現れず、


それどころかルセの前に現れたのはエルと名乗る深紅に染まった悪魔だった。