「眠れないの?」母はそういって話し始めた。


人間の世から離れに離れた遥か彼方。

宇宙の終わりのさらに遠くに彼のもの住まう城がある。

城は純白に輝き、だが何色にも染まらず、常に形を変えながら、存在せず、静かにそこに有った。

城の周りは大きな湖で、外の景色を鮮明に映している。

もちろん城も美しく優雅に映っている。

この湖は鏡の様に全てを映しているが為にどちらが外でどちらが水中なのかは誰もわからない。

それはこの城が湖に浮いているせいでもある。

いや、どちらとも知れぬ水中にその根を伸ばし、立っているのかもしれない。

いまだかつて誰も行き得ぬ彼の地で、彼の者は密やかに、居る事すら知られず、でも確実に足をつき、息をし、生きていたのだ。

彼の者は城から出なかったし、その城の「外」の存在を知らなかった。

だがある時彼の者は見たのだ。窓の外に広がる外の世界を。

彼の者は驚嘆し呟いた。

「あぁ、この地はこんなにも美しく光り輝いておる。

この地を「外」と名づけよう。そして今無から有へとなった外を我が独占するわけには行かぬ」と。

彼の者は外へ出た。

初めて踏むその大地は暖かく、素晴らしい場所だった。

そして彼の者はまず外に広がる全てのものに名前を授けた。

次に彼の者は全てのものに言葉を授け、語りかけた。

「さぁ歌っておくれ、そなたたちの呼び方で我を呼んでおくれ」

全ては歌いだした。

「私達は貴方を神と呼びましょう」

神は問うた。

「外とは他にもある物なのか」と。

全ては答えた。

「貴方が創るのです」全ての歌う歌は空に、地に、湖に、高々と響き渡った。

これ以上美しい物は無いだろうと思うくらい、美しかったのだ。



神はまずご自身によく似た、二つの命をお創りになられ、それぞれに神とよく似た体を与えられた。

そしてより神に似た方をヒカリと名づけ、輝く光を治めさせた。

もう片方の神とは少し違ったほうをライと名づけ、黒い闇を治めさせた。

これが2神の誕生である。

2神は神と協力し、広大な闇の中に光を創ることに成功した。

かくして神は宇宙をおつくりになられたのだ。

まず最初に創った星が神星ライだった。

そして神はライを取り巻く神系をお創りになられ、その中のひとつの星にご自身と2神によく似たエルフ、

それよりも少し小さな人間、

屈強なドワーフ、

神の僕である、翼を持ったドラゴン、

それに数多くの生物を創り、住まわせた。

それから幾多の年月が過ぎ、エルフとドワーフの間にポリーと呼ばれる種族が生まれた。

ドラゴンは唯一神と同じ言葉を話すが、他の生物のそばで暮らすのを嫌い、世界の果ての大陸で暮らすようになった。

全ては平和に過ぎていった。

だがある時、人間が「戦い」を知った。


それからまた少し時が流れた後、悲しみにくれていた神は汚れ無き心を持ったある人間の女性を愛した。

彼女も神を愛し、二人の間に命も生まれたが、2人の愛はそれでも夢の中の物だった。

ある日夢の中で神と愛し合ったことを人々に語った彼女は、神を冒涜した魔女だとされ、おぞましい拷問の末命を絶った。

それはそれは目を当てられぬような酷いものだった。

これを見た神はとてつもない怒りに身を包まれた。

この時の神の怒りから生まれた怪物が、オークやトロルなどである。

神は、心の美しい者だけを幻の地ルセに閉じ込め、残りの人間を滅ぼした。

他の種族の記憶からも人間を消した。

だがここで2神が神の怒りを静められた。2神は言った。

「このまま人間を滅ぼしてしまうのはいささか酷過ぎはしませぬか?

人間たちは神を心から尊敬していたが為にこのようなことになったのです。

神の子を始めとし、もう一度新しい種族として人間にチャンスを与えてもよろしかろうと思います」と。

そこで神は、哀れな自らの子を地上に降ろし、人間をおつくりになられた。

そのさいに神は言った。

「次に神系が一列に並ぶ時、また人間が同じ道を歩んでおったら今度こそ根絶やしにしてくれよう」

と呪いをかけ、2神がその滅びののろいを止める事の出来る人間「Y」をお創りになられた。

だが人間を信用し切れなかった2神は、神には告げずに、

Yを導き、滅びの日の事を伝え続ける「H」を、エルフ、ドワーフ、ポリーの中にお創りになられた。

また、神も2神には告げずに人間の居ない美しい世界を創る「A」をお創りになられたのだった。




母は語り終えた。

Hは語り継ぐ。


滅びの日は目前に迫っている・・・。