君の中の混沌が頭をもたげたのは


僕があの夢からさめたのとほぼ同時だった


喧騒の鳴り響くこの街


薄汚いスラム街の道端に


一輪だけ咲く


あの美しい白い花


――死神はいつも僕を待っている


はっきりとしたことは覚えていない


ただ僕の心が聴いたのは


あの、一言


深い、闇の中から漏れ出でたようなあの声


――死神はいつも君を待っている


嗚呼、唯それだけだった


何の変哲もない、


いつも通りの


つまらない夢の一場面


しかしそれは確実に、僕の心臓を射抜いた


――死神はいつも僕のそばにいる


それからだ


そう、それからだった。


君が目覚めてなお悪夢に魘されるようになったのは


君が僕の眼を見つめてなお僕を見なくなったのは


君の中にある光と闇


影と明


色と虚無


嘘と本当


愛と薄情


裏切りと真実


そういったものが


ぐちゃぐちゃにまざって


うずをまいて


君の外に溢れはじめたのは。


――死神はいつも彼の中にある


彼の中のカオスは


日に日に黒く


暗く


切ないものになっていった




そんなある日のことだ


僕はまた夢をみた


閑散とした路地裏


不敗集に満ちたスラム街


日のあたらない暗い路端の


美しい、あの美しい


――真っ赤な、あの花?







それから僕は夢を見ず


彼の中のカオスは成長を止めた




まるで彼らが世界の全てを呑み込んで




ぷっつりと


消えたようだった。